「石の微笑」ガラスの仮面・劇中作品データ
2017/02/05
劇団つきかげ ぷらす 一角獣
地下劇場「石の微笑」
出演:
フレデリカ:沢渡美奈 25歳の未亡人
エリザベス:北島マヤ 人形
イザベラ:春日泰子 口うるさい伯爵夫人、トラブルメーカー
ピオ:青木麗 イタリアから来たペテン師の男
ヴィクトリア:青木麗 絶世の美女
マリサ:水無月さやか 大富豪の令嬢
ハンナ:水無月さやか 女中
謎の老女:水無月さやか
ジョージ:細川悟 イザベラの夫
プレビュー:田部はじめ 弁護士
ギリンソン:堀田太一 バーソロミュー製鉄副社長
マーゴ:二の宮恵子 ギリンソンの秘書
演出:月影千草
初回観客:姫川亜弓、真島良、若い男性3人組、酔っ払い二人、カップル、若い女性3人組 合計12人
大都芸能の策謀により雌伏の時を強いられた劇団つきかげ。
養成所を追い出され、アパート住まいでアルバイト生活、
途中月影先生の死ぬ死ぬ詐欺といったアクシデントに見舞われるも
ついに復活の時が訪れたのだった。
あらすじ
1900年代半ばのロンドン。
大富豪、バーソロミュー製鉄社長夫妻が飛行機事故にて死亡。
莫大な遺産は12歳の一人娘マリサに譲られる。
しかし幼少時から病弱なマリサは両親の死にショックを受け、
弁護士に奇妙な遺言を託して死去。
なんと全ての遺産は彼女が小さな頃から愛情を注いできた人形に譲られるというものだった。
莫大な遺産の相続人となった人形と、
それを狙う未亡人、伯爵夫人、ペテン師、副社長などが巻き起こす悲喜劇。
劇団つきかげと劇団一角獣、夢のタッグ
劇団員五人の劇団つきかげがタッグパートナーとして選んだのは劇団一角獣。
なんでも「全国縦断武者修行」と称し、北海道から東北を経由して演劇ツアーを行なっていたとのこと。
途中アルバイトをしたり、トラックの中に宿泊したりと罰ゲームのような旅を続けた結果、
東京にて資金がなくなり、月影先生に出演を持ちかけられたとのこと。
全日本演劇コンクール上位のこの二つの劇団のタッグということでその実力はなかなかのものである。
登場人物も多く、つきかげのメンバーでは青木麗が二役、水無月さやかが三役とフル回転。
特にさやかは、若草物語でベス役をマヤに奪われて以来の見せ場。
客との掛け合いでは爆笑に次ぐ爆笑をゲット。
マヤもその芝居の呼吸の巧みさに感嘆するほどだ。
また最も影の薄い春日泰子はメインキャストの伯爵夫人を演じ、
その軽妙な演技で実力の片鱗を見せつける。
月影先生にスカウトされた「紅天女候補」の元候補者たちも伊達ではなかった。
演出は月影先生が担当している模様。
もちろん病床にあるため、全体稽古はいつもの教会にて行い、
それを病室で月影先生に見せ、駄目出しを受けるというもの。
個室とはいえ病室で稽古とは狂気の沙汰である。
資金を出してくれた紫のバラの人に迷惑がかかると思わないのだろうか。
同時に劇団一角獣はつきかげに吸収されるような形でその歴史を閉じる。
この後も地下劇場を皮切りに演劇活動を拡大していくが、
あくまでもつきかげ傘下のような形。
月影千草の紅天女復活の野望の肥やしにされてしまった感が否めない。
一角獣のオリジナリティある演劇の片鱗を見ることはできるものの、
単独での活動は描写されていない。
オンボロの地下劇場からのスタート
劇場として選んだのは潰れた喫茶店のテナント。
薄暗い階段を下るとさして広くないスペース。
楽屋などはないため非常階段を活用し、
座席はゴザとベンチ、照明や音響などの機器も借り物や中古だ。
しかしこの恵まれない環境で彼らの才能は爆発する。
初日は劇団員の街頭での手売りの結果、観客12名。
姫川亜弓、嵐ヶ丘で共演した真島良、暇つぶしのカップルや酔っ払いなど。
しかし思いの外大好評を博し、
10日目には劇場に入りきれない長蛇の列が発生。
向かい側の大劇場オリオン5から客を奪い、
急遽追加公演を行うまでに。
劇団つきかげの新しい出発は大成功であった。
マヤに与えられた課題
劇団つきかげのエース・マヤにあたえられた役は意外なものだった。
上記の人形役。劇中自ら動くこともなければ当然セリフを言うこともない。
マヤは稽古場で退屈になってくるが、月影先生に人形としての演技を要求される。
それは街中で人形の真似をしたり、禅寺にて喝を入れられたり、
極め付けは古い竹竿で体を固定、人形並みに可動域を限定するというもの。
途中流血し、大都芸能の変態ロリコン若社長に服を剥ぎ取られるという辱めを受ける。
そして人形の体の使い方をマスターしたマヤ。
稽古にて、そして本番にて共演者たちの芝居をみることで、
他の人の芝居に合わせる重要性を悟る。
それはまさに月影先生がマヤに与えた「自分を殺す演技」という課題の答えであった。
青木麗、役者としての活路を見出す
しかし何と言っても今回の大ブレイクは青木麗。
劇団つきかげ最年長、メンバーの姉貴として劇団を支えてきた彼女だが、
喫茶店でウェイターとして雇われ、女性客の固定客をつかむなど男前キャラとして活躍。
そして今回はペテン師の男役と絶世の美女役にキャスティング。
当初はやけくそになっていた麗だが、
本番では女性客を魅了。
「わたしの麗様」と黄色い歓声を浴びるまでになり。
地下劇場きっての看板役者になったのだった。
この展開を見越していたのか、やはり月影先生はすごい人である。
仮面が外れた・・・
- この劇を生かすも殺すもマヤの人形の演技一つにかかっているといっても過言ではない
- もし人形が人間であるということを少しでも感じさせたらこの舞台の全てが壊れる
- ある意味ではこれは大変な危険と危機感をはらんだ舞台なのですよ・・・
稽古時、そして本番中にも月影先生が前フリのように言っていた言葉である。
そしてそれが見事に前フリであったことを証明したマヤであった。
千秋楽当日、マヤの母親が行方不明になっていることを聞き、
しかもタイミングよく劇場近くで母親を見かけるというアクシデント。
本番中人形を演じながらもマヤは母親のことだけを考え続け
しまいには大粒の涙を流してしまう。
麗がアドリブで水をぶっかけ、一旦退場させたが、
舞台袖では月影先生による鉄拳制裁が待っていた。
本番中に仮面を外したマヤは役者失格の烙印を受け、
次回公演は出なくてよいと「謹慎処分」をくらうのだった。
まとめ
劇団つきかげが地下劇場にて復活、幸先のよいスタートを切ったにもかかわらず、
肝心のマヤは早速演じる場を失ってしまうのだった。